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【本】 『蛍川』 (宮本輝)

蛍川・泥の河 蛍川・泥の河
宮本 輝 (1994/12)
新潮社
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 子を捨ててまでも夫と別れた千代と、子が欲しいがために妻と別れて千代を迎えた重竜、重竜と千代の間に生まれた竜夫、それぞれの視点が映し出す世の儚さや悲哀を叙情的に描いている。

 事業に行き詰って破産した重竜は老いも重なって体も精も弱まり、病に倒れる。苦しくなった台所のやりくりと重竜の面倒に追われる生活を余儀なくされる千代。やがて重竜の命の灯は消えるが、死ぬ間際に重竜が先妻の春枝の名を口にしかけたことが千代の心にしこりを残す。重竜が死んで、春枝が尋ねてくる場面に移る。そこでは犠牲にして築いてきた千代よりも、黒々と染められて綺麗に束ねられた髪と渋い薄茶色の単衣の着物が象徴するように、犠牲にされた春枝の方が何不自由のない生活を送っていることが皮肉として映る。その後、重竜が竜夫を春枝に会わせていたこと、春枝が竜夫に対して何もかもを差し出してあげても良いというぐらい想っていることが描かれる。

 中学生の竜夫。幼馴染である英子への想い。恋敵である関根との友情。突然やってくる、関根の死。関根の死で様子がおかしくなる関根の父。少年の世界は常に大きく変わり続ける。

 最後の場面、蛍の儚い命の光に包まれた英子の姿は、繊細なものを壊さずに守ろうとする優しさが感じられる。と同時に、繊細なものを犠牲にした大人の悔いも垣間見える。
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