【本】 『石原慎太郎 日本を変えるリーダーシップ』 (竹村健一)
![]() | 石原慎太郎―日本を変えるリーダーシップ 竹村 健一 (2000/05) PHP研究所 この商品の詳細を見る |
石原さんは子どものころ、終戦近くだろうけれども、米軍機に追われた体験があるそうだ。後ろから機銃掃射が迫ってきて、麦畑に逃げて伏せると、米軍機が通り過ぎていった。僕は竹村健一をあまり好きではないので、本書を読むにあたって眉に唾をつけるという姿勢で臨んだ。予想通り、ただ石原慎太郎をヨイショしている本であった。
後ろからもう一機爆音が聞こえてきて、あぁ、二機目が来てやられてしまうんだなと思って振り返ったら、それはその米軍機を追っかけてきた日本の戦闘機だった。
「その日本の戦闘機の日の丸を見たときに、今のオリンピックで揚がる日の丸どころじゃない美しさに、じーんと来たんだ」
というような話をする。
政治家はなかなかこういう話をしないものだ。とくに今、歴史認識の問題は非常に微妙なことがあるから、貝のように口を閉ざしたり自分の意見を隠して、当たり障りのない意見を言う人も少なくない。
だが、それを堂々と言ってしかもそれ自体がもう一つのメッセージになっているところ、言動に表裏がないところが石原さんの一つ特徴だ。
僕は基本的に石原慎太郎を支持しているが、それは石原慎太郎の施策を支持しているわけではなくて、石原慎太郎の、彼自身の原体験に依って紡がれる強い説得力・メッセージ性を持つ言葉を豊かに表現してくれるところを支持している。以前に上野千鶴子が好きだと書いたことがあるが、それも同じである。こうしなければ駄目なのだという「大衆的ではない切実さ」が政治的なものとしてではなく純文学的なものとして滲み出ていて好みなのだと思う。
さて、本書であるが、読んでみると男女共同参画社会や移民受け入れに親和的で寛容であるなど石原慎太郎という人間が決して偏屈なナショナリストではないことがわかる。
しかし、男女共同参画社会と売春に対する考え方について僕は石原慎太郎に賛同できない。
女性が社会に進出すれば経済がまだ伸びるし、そうしなければ日本は駄目になるというのは移民受け入れ論と似ているところがあるが、僕はそうは思わない。いや、正確にいえば、そういう意見があってもいいと思っている。家事・育児を他の機関にアウトソーシングして女性を家事・育児という経済的価値の低いものからより付加価値の高い金銭労働にシフトさせるというのは合理的であるし、少し前に日経新聞が散々煽っていたように経済界の要請でもある。
ただし、と来る。本書で石原慎太郎は巨視的にそして体系的に考える必要性を述べている。そして軍事や国防を外部に任せることによって国家としての重要な決定が出来なくなったというローマ帝国の例を引いているが、そうであるならば、家事・育児、特に育児という部分を外部に委託してしまうのは体系的に捉えれば、ローマ帝国とやらと同様のことになりはしないのか。
また、石原慎太郎は本書で持論の売春フォビアを展開しているが、経済的精強さを保つのに女性が家事・育児を遠ざけて金銭労働に励むことを奨励するということは、突き詰めれば女性が売春をしてブランドバッグを購入するという動機を自身は意識していなくとも、非常に婉曲的に擁護してないだろうか。育児と金銭労働を天秤にかけたときに、金銭労働をとるということを奨励するということは、金という指標がそれまでこの国を蔽っていた曖昧な倫理を既に乗り越えていってしまっていることであり、一方でブランドバッグというインセンティブのために売春という行為に及ぶ女性を既に自分達が否定した曖昧な倫理観を用いてバッシングするというのは極めておかしな論理としか言いようがないのだ。
と、まあ、僕は石原慎太郎は好きだけど、石原慎太郎信奉者ではないですよ、というお話でした。ちなみにこの本はあまり面白くない。竹村健一は見た目は面白いのだけど……。
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