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【本】 『テニスボーイの憂鬱』 (村上龍)

テニスボーイの憂鬱〈上〉 テニスボーイの憂鬱〈上〉
村上 龍 (1987/10)
集英社
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 テニスボーイの本名は青木重久という。この土地の人間で、地元にステーキ屋を二軒経営している。この土地というのは、二十年前は山ばかりだった横浜北部の、新興の住宅地である。地主の一人息子だ。テニスボーイの父親は数十億の金持ちだが、残った僅かな土地でナスやトマトを作り続けている。従って青木家には土地成金にありがちな浪費による家庭不和や個々の精神的退廃はない。テニスボーイは来年三十歳になる。
 テニスボーイが仕事もそこそこにテニスに打ち込みながら不倫をしていく小説である。

・テニスボーイには妻子がいる。
・テニスボーイが吉野愛子と知り合い、不倫の関係になる。
・テニスボーイが吉野愛子と別れる。
・テニスボーイが本井可奈子と知り合い、不倫の関係になる。
・本井可奈子の妊娠が判明。テニスボーイは本井可奈子に中絶を懇請する。
・本井可奈子が中絶をする。

 村上龍らしい快楽主義的な話になっていて、考えだすと苦悩に陥るような場面になるとテニスボーイは「俺は悪くない」と心の中で連呼する。人生とはシャンペンのようなものでキラキラ輝いているときだけが生きているということだ、自分が輝けば他の人にも感動を与えることができる、いい思いの記憶だけが人間を優しくし、非常時にも耐えられる原動力となる、と言い切る。
 いいか? 可奈ちゃん、女房や子供を捨てる気はない、女房と子供だけじゃない、女房と子供はいろんなものにつながっているんだ、俺は大切にしている、今はな、だけど可奈ちゃんのことも大事だ、離れられない、一緒に暮らすことも考えたりしている、でも今はだめだ、じゃいつだって言われてもわからない、だけど可奈ちゃんのことは一生離さないと思ってるんだ……そんなことは言えなかった、テニスボーイはずっと黙っていた。
「何か言ってよ」
 本井可奈子は強く言った。
「あたしと青木さんと奥さんと子供の関係について、何か、言いなさいよ」
「順番だ」
 そう言って、テニスボーイは自分でもびっくりした。どこから順番という言葉が出てきたのかわからなかった。順番とはヨシヒコが幼稚園で最初に習ってきた言葉だ。幼児は待つことを知らない、ブランコや食事やテレビのチャンネル、そこで保母さんは「順番」と言って、待ち、耐えることを教えるのである。待っていれば、いつか自分の順番が来るのだ。割り込んではいけない。先に並んでいる人を尊重しなければいけない。それはルールだ。
「順番って何よ」
「可奈ちゃんと知り合う前に女房と知り合った、可奈ちゃんと知り合う前に子供も生まれてた、子供はかわいい、俺には、今は、どうにもできないんだ、順番だよ」
 この小説で吐露されている男の身勝手ともいえる心情に嫌悪感を抱く人も多いらしく、ネット上での感想は賛否が大きくわかれているようだ。個人的には不倫云々よりも、横浜のチベットと言われるほどに赤土や沼だらけだった土地があっという間に開発されてしまい、「転んだりすると汚れるし砂利石で怪我をするので子供達はすぐ前方の地面をしっかり見て一歩一歩真剣に歩いた」という赤土の道がなくなり、自分の息子がコンクリートやアスファルトの道というどこにでもある同じような景色の中で育っていくことに感傷的になるシーンが印象的ではあった。
 すっごく村上龍らしい作品ですね。これも読んでみますね。

 『走れ!タカハシ』に出てきたドキュメンタリー番組のディレクター(プロデューサーだったけ)を思い出します。
 愛人から内縁関係解消の慰謝料を払え!と訴えられていて、内縁ではない、ただの愛人関係だと主張するため別の愛人に証人になってもらおうとするズーズーしい男。

 この証人になる別の愛人(ハウスマヌカンだったけ)は、結構好感が持てる。めずらしく謙虚な人だったな。
2006/07/21(金) 14:52:06 | URL | kei #-[ 編集]
>>keiさん
息子の名前もヨシヒコになってて「走れ!タカハシ」の頃の流れを感じる作品です。テニスボーイの作中には野球を「知性のねえスポーツだなあ」と書いててこの頃の村上龍は野球に飽きてたのかなと思いましたが、テニスボーイの方が「走れ!タカハシ」より早く書かれたらしいですねえ……。
2006/07/22(土) 08:49:37 | URL | コウイチ #-[ 編集]
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