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【本】 『ハリガネムシ』 (吉村萬壱)

ハリガネムシ ハリガネムシ
吉村 萬壱 (2003/08)
文藝春秋
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 高校の倫理の教師である「私」がソープ嬢のサチコと思いがけない縁で同棲していくようになり、惨めな姿を晒し出すサチコに対して「私」の中に暴力衝動が沸き起こるという話。第129回芥川賞受賞作品。文藝春秋2003年9月号で高樹のぶ子氏は次のように選評している。
 昨今、強い者にではなく自分より弱い者に向かう暴力が溢れている。唾棄すべきこのような暴力衝動がなぜ生まれるのかを、受賞作『ハリガネムシ』は丁寧にかつ非常に解き明かす。サチコという肉体も精神も貧相な女と出会い、その誇りのなさや卑小さへの嫌悪が、主人公を怒りや暴力へと駆り立てていく。弱者への暴力とは自己嫌悪の裏返しなのだろう。素手で持つと怪我をしそうな、重い刃物の一作である。
 文章は確かに丁寧であったと思うし、比喩も巧みに使用されていて、とても読みやすい小説であった。しかし、暴力衝動が何故生まれたか、そしてその衝動が何故抑えきれずに暴発したのかというところは掘り下げられていなかったと感じた。村上龍氏はこう評している。
 『ハリガネムシ』は、テクニックも実力もある作品だったし、登場人物のキャラクターも会話も巧みだった。だがまるでスラップスティックムービーを見ているようで、切実さがなかった。ソープ嬢の手首の傷を主人公が縫うシーンがあるが、痛みが伝わってこなかった。
 これには同意してしまった。文章は巧みではあったが、痛み、もしくは痛みに代わる何かも伝わらない。何かを問いかけている風にも思えない。エンターテイメントにうまく仕立て上げられなかったので仕方なく文学に持ってきたんじゃないかと邪推してしまいそうな出来。まあ今の日本文学というものがそれほどまでに魅力を感じさせない部門であるからなのだが。amazonの感想では多くの人が嫌悪感を抱いたといって低い評価をしているが、むしろ嫌悪感を抱かせるぐらいにこの小説にエネルギーを感じたとうのは逆に評価してもよいぐらいではないかと思う。というぐらい僕はこの小説に特段何も思うところを抱かなかった。ただ、弱者への暴力衝動というか苛立ちみたいなものはどうしても募ってしまうのだろうな。その気持ちはわからないでもないし、実際ネット上ではそういう苛立ちを書き綴っているブログなんかが結構ある。対象とされる弱者は女性だったり非モテだったり喪男だったりひきこもりだったりフリーターだったり平和主義者だったりニートだったり韓国人だったり中国人だったりネット右翼だったりと色々で、その衝動に右派左派老若男女の差はないのだろうなあと感じる。ネット右翼が弱者なのかどうかはわからないが、ある種の人間にはひきこもりやニートやオタクと同義にされてしまっている上に散々馬鹿にされているのである面では弱者なのかもしれない。まあ小うるさいことを言うのは好きでないし実際ネット右翼というのがやっていると思わしき韓国とかに対する侮蔑のサイトが結構な数存在するのは間違いないのだが、ネット右翼を差別主義者だと罵る時に、ネット右翼をひきこもりやニートやオタクのイメージと自分の都合の良いように重ねて差別しているのにはうんざりしてしまう。まあそもそもネット右翼って言葉自体が中傷語らしいし、小説から逸れた話題でもうしわけないのだが。
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