【本】 『催眠』 (松岡圭祐)
![]() | 催眠―Hypnosis 松岡 圭祐 (1999/04) 小学館 この商品の詳細を見る |
ある嵐の晩、ニセ催眠術師・実相寺則之の前に突然現れた色白の女。稲光が走り雷鳴がとどろく中、突如女は異様にかん高い声で笑い出し、自分は宇宙人だと叫び始めた──肝を潰す実相寺の前で、その女が見せた異常な能力とは? そして女の前に現れた東京カウンセリング心理センターの催眠療法科長・嵯峨敏也が見抜いた女の能力の秘密とは? 複雑な精神病理と医療カウンセリングの世界を一級の娯楽作品に仕立てた話題のベストセラー。多重人格障害の女性・入絵由香と心理カウンセリングセンター催眠療法科長・嵯峨敏也を中心に、人間の精神・心理について素人にわかりやすく講釈がなされながら展開される小説。精神病に対する偏見、多重人格障害の特徴、そして催眠術に対する世間の誤解などが説明臭いほどに説明されていて、心理センターの人間達(精神の病を患った人達に理解のある人達)と警察や一般の人間達(精神の病を患った人達に理解のない人達)との対立軸を用いている。描かれているテーマは重く、社会派小説的で、実に落ち着いた描写で終始淡々と出来事が綴られている。
精神病を患っている人と横領事件の関わりは如何にも娯楽小説的ではあるが、一方で最後の横領事件の真相などは正義感に溢れる心理カウンセラーの活躍によって全てが丸く収まってしまう都合のよさと同時に本書のエンターテイメント性がとってつけたものであるのを象徴しているかのようだった。
決してつまらないわけではないし、精神病と催眠に対する世間の誤解に警鐘を鳴らしたという意味で意義深い作品ではあろうが、一つの娯楽小説として読んだときに、文庫本500ページという分量の割に、中味の厚さ、娯楽性の高さ、物語の壮大さを感じることができなかったのが残念である。本編主人公の嵯峨敏也以外の自分による本筋とは全く関係のない催眠療法エピソードが余計だったのかもしれない。本筋(入江由香)とうまく絡めた上で他の催眠療法エピソードが加えられていれば、と思った。
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