記憶が80分しか持たない天才数学者の博士とそこに派遣されたシングルマザーの家政婦とその息子の交流が描かれている。数学・数式というものを巧みに活かして文芸的に人間的温かみを最初から最後までぬる〜く貫かれている。専門的知識が問われそうな数式も高校数学を勉強したものならば耳目に触れたことのあるものを詩的な意味合いを持たせた分かりやすい説明で親しみが持てるようにされているのも作品のぬるさと相まってファミリーで観て安心して楽しめる作品になっている。その一方で、全体的にあまりにもぬるすぎて、退屈もしてしまった。こういう機知に富ませた会話の応酬で心の交流が描かれるホットなヒューマンドラマというのは海外映画でも珍しくないが、同じような海外の名作に比べると部分部分としては優れた部分があっても、全体としてはただぬる〜いゆる〜い出来になってしまっていたのが残念だった。あまりにも話に起伏がなさすぎたというのもあるが、映像的には家政婦(深津絵里)の存在感が際立っていたのに対して、ストーリー的には家政婦はあくまで大したことのない受け手にされてしまっており、博士(寺尾聰)だけを主役として立たせていたことによるアンバランスさも原因だったのかもしれない。もう少し両者の背景的なエピソードをバランスよく挿入して欲しかった。
とはいえ、まずまずの良作。キャストも、寺尾聰、深津絵里、浅丘ルリ子、吉岡秀隆、と若さと華やかさには欠けるが、それぞれから年輪が刻まれた濃厚な魅力・演技力が発揮されていて作品の質を高めている。