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【本】 『五体不満足 完全版』 (乙武洋匡)

五体不満足―完全版 五体不満足―完全版
乙武 洋匡 (2001/04)
講談社
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「障害は不便です。だけど不幸ではありません」喧嘩にスポーツ、課外活動。大勢の仲間に囲まれて、明るく楽しい”オトちゃん”の物語は、生きる勇気を与えてくれる。日本中にセンセーションを巻き起こした感動のベストセラー。単行本刊行以降、多くの苦悩と喜びを経験した著者が、”現在”の心境を加筆した完全版。
 先天性四肢切断、要するに手足がないという障害を背負って生まれてきた乙武氏が自身が生まれたときから早稲田大学在学中までの出来事を綴った本。乙武氏の障害に対する無邪気で天真爛漫な捉え方と五体不満足というインパクトのあるタイトルと乙武氏の衝撃的な姿で大ベストセラーとなった本。

 そのあまりの内容のポジティブさに、乙武氏はさぞかしナイスガイなのだろうと、これは嫌味でもなんでもなく、率直にそう感じた。自惚れの強さと氏の思春期らしからぬ幸福すぎる青春生活は少々鼻についたものの、野心溢れる若者が自伝を書いてみればポジティブかネガティブの差ぐらいはあろうとも恐らく誰でもこういう自分大好き風になるのではないだろうか。乙武氏は本書の内容を我々健常者が一般に障害者であるとクリティカルに付随してくるだろうと想像する辛難甘苦を殊更にアピールせずにむしろ障害を感じさせないように明るくポジティブな姿勢で一貫させている。見事であるのはその姿勢で幼い頃から大学在学中までの健常者と変わらない青春の出来事を文庫本250ページ超のボリューム書いているのだ。これは並の器の学生ではなかなか出来ないであろう。周囲に恵まれた環境があったのかもしれないが、乙武氏自身の魅力なり行動力なり知力なり、そういった能力が実に優れているからこそ幸せな生活を送れていることが窺える。

 しかし、五体不満足というタイトルで障害者の自分を曝け出して大衆の好奇の目を惹きつけておいて、だけど健常者と変わらない幸せな青春でしたよ、と結局は障害者である自分とのギャップを利用し、意図的であろうがそうでなかろうが自身が障害者であることの苦しさや悩みがほとんど描写されていない本書において、その自身の突き抜けてポジティブな姿勢・価値観を障害者であることを利用して障害者全体のフィールドに広げてしまっている無配慮さが存在しているのが辛かった。メッセージの読み違えというのか、乙武氏は本書の中で自分が障害者代表を気取るようなつもりはないと否定しているのだけれども、そうは云っても実際に読めてしまうし、そう大袈裟に読めてしまう内容であったからこそかつてのセンセーションを巻き起こせたという側面もあるだろう。本書が注目されてしまったということが障害者にとってよかったのかどうなのかよく分からない。ただ、障害者の中には乙武氏をよく思わない人もそこそこいる(た)そうで、なるほどと、やはり考えさせられる。

 ひたすらポジティブな内容の本書の中にも、障害があることで世話をしてもらっている中における感謝や遠慮・申し訳なさの気持ちがひしひしと伝わってくる。乙武氏は本当にいい奴なんだと思うが、そうであるからこそ、強い謙虚の気持ちがあればこそ、他の障害者と障害者に接する健常者に対するポジティブというよりもドライなメッセージは発信して欲しくなかった。障害者に対する「かわいそう」の同情は湿っぽくていやらしさがあるものかもしれないし、乙武氏のような人間にとってそれは壁に感じるのかもしれないが、それが救いの手となっているケースも大いにあるわけで、皆が乙武氏のように自尊心が高く誇りがあるわけではない、むしろ乙武氏の言うように誇り高くあろうとするほどに自身の障害と社会の関係性に思い悩み、遠慮や申し訳なさに押しつぶされる場合を想像した上で”湿っぽく”接するのが既存の「思いやり教育」であったように思う、本書はそれをひっくり返してくれたが、それが果たして当の障害者にとって良かったというと……結局どうなのだろう。
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