【本】 『美徳のよろめき』 (三島由紀夫)
![]() | 美徳のよろめき 三島 由紀夫 (1960/11) 新潮社 この商品の詳細を見る |
本作でいう美徳、背徳の美徳と世間向けへの不幸な美徳による節子夫人の板挟み感が弱く、美徳がよろめいているのではなく、堅固な道徳観念が揺らいでいるのではなく、生来の節子という人間の本性がよろめいているように読める。生まれと躾の良さによって精神的エレガンスなままに不倫をする女性の姿が描かれているが、その退屈さに吃驚した。むしろ平凡な、という形容をしていいものか憚れるが、そういう上品という嫌味な縁取りのない女性の方が様々なことに悩みながら怯えながら後ろめたさに苛まされながらそれこそよろめくどころか突き抜けてボロボロになって最後を劇的に迎えるのではないか。僕はそちらの方が美に思える。不良になりきれない内向性、快楽を捨ててでも狡猾に平穏的に済ませようとする外向性の弱さにどうしても苛立つ。
文学小説である本作には、不安を抱きつつも一方で安心したのような矛盾した感情を巧みに共存させるまさに文学らしいレトリックが多く使用されているが、そのレトリックが読者としての自分には節子夫人を思慮の深い存在に映さなかった。たぶん、絶対にこういうのがいたら殺すのだろうな、少なくとも殴るのだろうな、と自分は思うが、まあ、そうはいっても実際には例えば僕は自分の母親を殺してないので、どんなに近い距離でも一定の距離感を保って線引きさえできれば人間はかなり平和に共生できてしまう、この自分の実感と本作における節子とその良人などの距離関係がピタリと当てはまってしまうところが恐怖であり、はたまた本作主役の節子に対する更なる憎しみを抱かせた。そこを突き破って欲しいのだよ、僕は。
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